双極誘導法とは、身体表面に設置した2つ (1対) の電極間における電位の差を測定する方法である。これに対して、単極誘導法とは、ある基準点と身体表面の1点間における電位差を測定する方法であり、基準点は 0V (ゼロ・ボルト) でなければならない。しかし、身体のどこにも 0V を示す点がないために、「Wilsonの中心点」と呼ばれるものを便宜的に基準点としている (右図を参照)。Wilsonの中心点とは、右手、左手、左足の電極を 5 KΩ (キロオーム; 電気抵抗の単位) 以上の抵抗(R)を介して1点に結合させたものである。この結合点での電位は、1心周期内に0.3 mV (ミリボルト) 以内の変動しか示さないので、実用上の 0V 地点として使用できる。このような電極を「不関電極」とも呼ぶ。
もっとも普通に行われる心電図法は、標準12誘導心電図と呼ばれる方法である。ここでは、右手、左手、左足と胸壁上6カ所に電極を装着し、12の誘導 (導出) 法による電位変化を記録する。右足の電極は通常ア−スに導かれている。下には各誘導の電極装着位置をまとめてあり、図は各々の誘導で記録された成人の正常心電図を示す。なお、緑色で示した項目は、本実習では対象外の誘導である。
双極標準肢誘導は、第T、第U、第V誘導からなる。第T誘導では、右手と左手の間の電位差を計測する(右手電極を基準とした場合の左手電極の電位記録と考えることもできる)。第U誘導では、右手と左足間の電位差を計測する(右手を基準とした左足の電位記録)。第V誘導では、左手と左足間の電位差を計測する(左手を基準とした左足の電位記録)。ただし、第T誘導は左手電極、第U、第V誘導は左足電極を心電計のプラス極に連結する。
双極標準肢誘導は、次に記す Einthoven の考えから出発している。すなわち、胴体を十分大きな均一の媒体と仮定し、右手、左手、左足電極はそれぞれ四肢の付け根に装着したのと同じ意味をもつと考える(四肢先端と付け根は同電位と仮定する)。そうすると、各電極は正三角形の頂点に相当する位置にあり、心臓はその正三角形の重心にあると仮定できる。この三角形を「Einthovenの三角」という。次項に「Einthovenの三角」の具体的な作図法と平均電気軸(心臓電気軸)の求め方を示す。
ここで、心室での脱分極ベクトルが最大となった瞬間の大きさを E とすれば、各誘導軸にはそのベクトルの投影に相当する E1, E2, E3の大きさをもつ電位が生じ、これらが心電図の第T、第U、第V誘導での R 波として記録される(図を参照)。また、ある時点における右手、左手、左足での電位をそれぞれ(R)、(L)、(F)とすれば
T=(L)−(R)
U=(F)−(R)
V=(F)−(L)
より、U=T+V の関係が成り立つ。これを「Einthoven の式」という。
大きさについては、波形のフレが上向きの場合には「基線上縁から何mV」、下向きの場合には「基線下縁から何mV」というように測定する。このとき、通常は出力用紙の方眼 1 cm が 1 mV を表す。
設問: 方眼で 4 mm の波高は何mV か?[0.4 mV]
幅については、出力用紙の紙送りが 25 mm/sec であるので、方眼 1 mm が 1/25 = 0.04sec に相当することがわかる。幅は、1 mm の 1/4 までを読み取るようにする。
設問: 最小読み取り精度の 1/4 mm は何sec に相当するか?[0.01 sec]
設問: 方眼で 3.5 mm の波幅は何sec か?[0.14 sec]
第I誘導の和と第III誘導の和をEinthovenの三角形のI軸とIII軸の上にプロットする(図b)。このとき、軸の中心が 0 mV で、I軸では右側が正方向、III軸では下側が正方向である。
図b. 軸へのプロット
三角形の重心と、両軸のプロットから伸ばした垂線の交点を求め、これら2点を結ぶベクトルを作図する(図c)。これが平均電気軸である。
図c. 平均電気軸ベクトルの作図
-30°〜110°の範囲にあれば「正常軸偏位」、-30°を反時計方向に越えていれば(つまり角度が負値のときは)「左軸偏位」、110°を時計方向に越えていれば「右軸偏位」と呼ぶ。